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[※恋せよ乙女(前編)]
静臨←ヴァロ/裏










ただなんとなく。そう、気まぐれで池袋を歩いていたときだった。客引きをしている最中のサイモンと偶然に出会った。

「オー、イザーヤ。スシ、クイネェ。アタマよクナル、みんなヨロコブ」
「せっかくだけど今日は遠慮しとくよ。また今度ね」
「ナラしかたガナイネ」

サイモンの顔から人当たりの良い笑みが消える。本能的に危険を察して後ろに飛び上がったけれども、サイモンのリーチは圧倒的に長い。
サイモンの拳が俺の鳩尾に入り、たまらずに嘔吐してしまう。ああ、今日はろくに食事を取っていなかったから胃液だけだ。

「悪く思うなよ、これも人のためだ」

何で俺が殴られなきゃいけないのか。普段の行いのせいか、それともスシを拒んだからか。わからなかったけれど、霞んでいく意識の中でロシア語でそれを聞いた。















意識が復活したときには、俺の視界に真っ先に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。

「……ここはどこ」

わたしはだれ?と続かなかっただけ感謝したい。サイモンに殴られたのだから一番可能性のあるのは露西亜寿司だが、ここは露西亜寿司の裏というわけでもないだろう。

それにどことなく生活感のする一室だった。そうはいっても今俺がいるベッドとタンス、テーブルと大量の本くらいしかなかったのだけど。

それはまあいい。今の問題は俺が服を着ていないことだ。全裸。真っ裸。すっぽんぽん。尻に違和感はないから性的に襲われたわけではなさそうだ。だけど脱がせて放置なんて、もう正面向き合ってサイモンと会うことはしづらいかもしれない。
このままでいるのはまずいと勝手にタンスを開ける。そこに入っていたものはひとつ残らず女物だった。タンスの引き出しのうちひとつは下着が入っていた。もちろん無言ですぐ閉めた。

さて、どうしたものか。シーツを体に巻きつけながら溜め息をつく。このままでは外に出られない。考えあぐねていると外へ続くのだろうドアが開いた。ドアの隙間から見えたのは金髪だった。

「起床しましたか。おはようございます」
「あー……おはよう?」

現れたのはシズちゃんとは違う天然の金髪をした、まだ少女といってもよさそうな顔立ちの女だった。たしかヴァローナという渾名だったと記憶している。俺と直接的な接点はないはずだった。

「ねえ、ここは君の部屋?どうして俺がこんなところにいるのかな」

「質問に返答します。ひとつ、ここは私の部屋。肯定です。ふたつ、折原臨也がなぜここにいるのか。それは私の強い要求により、サーミヤに協力を仰いだからです。残念無念」
「相変わらずちょっとずれた日本語だよね……。つまり君は俺を捕獲して何がしたかったの?わざわざ服まで脱がしてさ。とりあえず服を返してもらえると嬉しいんだけど」

ヴァローナと話しながら視線はドアを盗み見ている。まだヴァローナがドアの前に立ち塞がっているし、何より服がないから出られない。
ヴァローナは一体何のつもりだろう。俺の彼女らにした所業がばれたのか。ありえなくもない。復讐、されるのだろうか。負ける気はしないけど油断してはならない。警戒しているとヴァローナは無表情のまま言った。

「折原臨也。貴方は私の知的探求心をくすぐり、かつ、胸のうちに疼くような奇妙な感覚を覚えさせます。不思議です。私はこれを好意だとみなします。異議はありますか?」
「……異議しかないっつーの」

何のことだと思ったら、俺に好意を抱いてるときた。思わず笑い出しそうになるのを堪えるのに忙しい。サイモンは彼女の恋の応援でもしたかったんだろうか。普通はやめとけと諭すだろうに。

「俺も好きだよ。でも悪いけどあくまで俺は人間というカテゴリで君を見てる。だから応えることはできないかな」
「……理解しました。ならば実力行使です」
「っ!?」

ヴァローナがベッド上の俺に飛び掛かる。反応が一瞬遅れた。ヴァローナは俺に馬乗りになるとポケットから瓶を取り出して、その中身を俺の口に注いだ。液体状のそれはこの体勢もあって勝手に流れ込んでいく。口元を押さえて俺は噎せた。

「な……何を飲ませた……?」
「催淫剤、弛緩剤。人体に影響はありません。問題ないです」

体が熱くなってくる。逆レイプでもされるのか。そんな愛情表現馬鹿げてる。

足音が外から聞こえてきた。だんだん音が大きくなる。聞きなれた怒声までも。ヴァローナは舌打ちしていた。

「おいヴァローナ!臨也に手を出すなって言っただろうが!」
「……どうして静雄先輩はここを突き止めたのですか」
「サイモンが言ってたんだよ」
「サーミヤ……」

ヴァローナは歯ぎしりする。俺が何とか助かったと安心したのは束の間だった。

「……こいつとヤろうとしてたのか」
「…………肯定です」
「俺と一緒なら、一回くらいいいぞ」
「え?」

おい、なんだよこの超展開。





 



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