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[※♀暗渠の底よりお慕い申し上げますB]





臨也は一つ大きな咳をして、深く息を吸う。口の端から垂れた液体が首筋に伝おうとしていた。
「なんのつもり?」
睨んで問い詰めるわけでもなく純粋に理解できない、とそう言いたげな表情だった。静雄はその問いかけには答えずに、何も言わず臨也を硬いフローリングの床に押し倒した。覆い被られて再び迫る静雄を押し返すように、静雄の肩に触れていた手を伸ばした。
「シズちゃん、悪いけど俺にはこんな趣味ないから。分かってるの? 俺は男――――」
最後まで言い切る前にその口が大きな手で塞がれる。
「俺は知ってる」
静雄の、その名前に相応しい声音だった。臨也は一瞬目を大きく開いて、後はもう何も言及しなかった。臨也が言葉を続ける気はないと判断したようで、静雄は臨也の口を塞いでいた手をゆっくりと外した。臨也は少し視線を迷わせて、何か思い立ったように静雄を見つめた
「でも、君を大切に思う人は他にもいるだろう? …俺には、」
俺には? 
そう考えたところで臨也の頭に不意に白い影が過ぎった。あれを数えていいものか、と考えて眉間に皺を寄せた。もう思い出すだけで染み出す感情をいっそ忘れてしまいたい。そう願うのは卑怯なのだろうか。

「…なんでもない。するなら、せめてベッドまで連れてって」
臨也はそう言って目元を腕で覆った。口元を引き結んだまま、もう何も言わない。鬱々とした感情に飲み込まれて何も考えられなくなっていた。静雄は臨也の身体を横抱きにすると、躊躇なく寝室へと向かった。その間静雄は口を開かなかったが、寝室のドアの少し手前でボソリと呟いた。
「…俺だってお前を、」
黒い感情に飲み込まれた臨也には聞こえなかった。

***************

「…あ、」
臨也は微かに声を漏らして晒された胸を上下させる。コートとインナーは剥ぎ取られてどこかに消えていた。静雄は常と同じ黒いズボンに手をかける。現れたのは随分と彼女に不釣合いな薄いピンクの下着だった。臨也に女性らしさはまだ残っているのだろう。静雄は冷静にそう思った。下着に手をかけられるのかと、一瞬だが臨也の身体が硬直する。静雄はそんな臨也の反応に気づいているのかいないのか、下着を素通りして彼女のデコルテに口付けた。
「は…、ぁ」
アルコールのせいか熱くなった吐息を苦しげに漏らす。脇腹を緩く括れに沿ってなぞるとむず痒そうに身体を逸らした。白い胸の膨らみに手を添える。
仰向けになっているせいで重力に従ってこぼれる胸を横から掬い上げるように持ち上げると静雄の節ばった指が深く沈んだ。静雄は固く尖らせた舌でその膨らみに触れる。指が沈んでいることによってある程度体積が圧縮されていたので、程よい弾力でもって静雄の舌を押した。徐々に舌を緩く尖った乳頭に近づけると臨也の身体が強張った。
「怖いか?」
静雄の問いかけに臨也は硬く閉じていた目を緩やかに開いた。眩しいほどのライトの明かりが目に刺さる。
「うるさいな、…さっさと抱きなよ」
もうする気がないならシーツを被りたい。身体を見せることに羞恥があるわけではないけれど、少し寒い。静雄は何も言わず下着に手をかけた。音も立てずに下着が抜き取られる。いっそ乱暴にしてくれた方がまだいいのに、と思った。静雄を代わりにしている気分になる。誰のとは言わないけれど。文字通り生まれたままの姿になった臨也の膝に静雄の手が触れた。足を開かせるつもりなのだろうとは理解していたけれど微塵の抵抗もなく開くのは無理があった。しかしそんな抵抗も静雄にとっては無意味に等しく、多少強引に開かれてしまえばそれで終わりだ。

隠されていた部位が外気に晒される。どうにも心許ない気分になった。静雄は性器を筋に沿って乾いた指でなぞる。粘度の高い液体が指に絡むの を感じた。
「ィ…ひっ」
不慣れな感覚につい足を閉じようとする。静雄は諌めるようにその足を元の位置に押さえつけた。静雄は何度か指で筋を往復した後、ぐ、と指を押し込もうとした。しかし思ったよりそこは狭く、静雄の指を拒んだ。第一関節すら入らないそこに、静雄はどうするか、と思案を巡らせた。あいにくこの場にローションのようなものは無い筈だ。静雄は少し考えるような仕草を見せたあと、臨也の足の間に顔を埋めた。
「…えっ?」
色気とは程遠い疑問の色が浮かぶ声だった。静雄は再び硬く尖らせた舌で筋をなぞった。
「ぃ……っあ!」
少ししょっぱいような、不思議な味だと思った。零れた粘液を全体に塗りつけるように舌を動かす。掴んだ太ももが痙攣したように震えていた。臨也の少し濡れた目が捉えたのは近くにあった黒いゴミ箱に入ったビニール袋だった。先程利用したネットスーパーのところと同じだと気づいたところで、臨也は若干の違和感を覚えた。


 



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